ステンレス鋼材(SUS)の機械的性質の違い

ホーム>ステンレス鋼材(SUS)の機械的性質

ステンレス鋼材がもつ機械的性質について

ステンレスの機械的性質には、下記の指標がよく用いられます。

  • 耐力、降伏点
  • 引張応力
  • 伸び、絞り、曲げ
  • 硬度
  • 靭性を示すためのシャルピー衝撃値

これらの値の中には片方が高ければ、もう片方は低めになるというように、全指標が優れているというものはないと考えたほうが良いでしょう。どの機械的性質が重要なのか、精査する必要があります。

機械的性質の多くは、他の鉄鋼材料全般についても言えることですが、「熱処理」により大きく変わります。以下に主要なステンレスの大分類で、どのような違いがあるか見ていきます。

マルテンサイト系の機械的性質

920℃から1070℃の高温で加熱したあと急冷する「焼入れ」によって硬くて強い特性が得られます。

炭素が多いとより硬くなるのは鉄鋼材料と同様です。ただ、この焼入れだと硬いですが、もろいという性質もあるため「焼き戻し」によって調整します。150〜200℃の低温で焼き戻す方法と、600℃〜750℃の高温で焼き戻す方法があります。なお、マルテンサイト系は、475〜550℃の温度範囲では「ぜい化」や耐食性の劣化など負の影響が大きく、注意が必要です。

また、硬いと延性に欠けますので、状況により軟化させるための「焼きなまし」も行われます。

フェライト系の機械的性質

温度にかかわらず、高温常温で安定しているのがこの金属組織の大きな特徴ですので、焼入れしたあとの硬化がありません。このタイプは、「焼きなまし」の熱処理が行われることはあります。ステンレス成分のうち、炭素、窒素の影響が大きく、機械的性質を向上させるためにこれらの元素と反応して炭化物などを生成するために特殊元素が添加されたものもあります。

フェライト系もマルテンサイト系と同様に、「ぜい化」してしまう苦手な温度があります。475℃付近で、金属組織内でクロムの多い部分と少ない部分とに分離してしまう現象が見られることがあります。これは475℃ぜい性と呼ばれ、クロム量が多いほど短時間の加熱でも「ぜい化」してしまいます。

ほかにも、600〜800℃で長時間加熱するとσぜい性(シグマぜい性)という鉄とクロムの化合物生成により「ぜい化」が起きます。950℃以上の加熱でも高温ぜい性と呼ばれる現象が起きるとされます。

こうした「ぜい化現象」を防ぎ、じん性を出させるために「焼きなまし」が行われます。

オーステナイト系の機械的性質

1010〜1150℃に加熱した後に急冷する「固溶化熱処理」という焼入れによってじん性、延性が高まる性質を持ちます。引っ張り強さが高い割りに、伸びも高いという特性があります。

オーステナイトは加工硬化を起こしやすい材料ということでも知られますが、冷間加工によってマルテンサイト系へと金属組織が変化してしまう性質があります。冷間加工したオーステナイト系のステンレスの中に、磁石に付くものがあるのはこのためです。

析出硬化系の機械的性質

この種類は、名称にもあるとおり「析出硬化熱処理」をすることで、特に硬く強度に優れたステンレス鋼材となります。マルテンサイトの、硬く強いが耐食性に劣る、という欠点をカバーした種類といえなくもありません。熱処理の温度によって強度や硬さを優先した機械的性質にするのか、じん性を優先するのか調整が可能です。

二相系の機械的性質

このステンレスは、オーステナイト・フェライトの各組織がそれぞれ同じ程度存在するタイプです。950〜1100℃に加熱して急冷することで最高のじん性、延性を得ることができます。フェライト系の欠点でも475℃ぜい性を示すため、一般には400℃以下で使われる鋼種です。

スポンサーリンク