錆びにくい、つまり耐腐食性を持つことが最大の特徴でもあるステンレスですが、どのような環境でも万能というわけではありません。腐食を防いでいるステンレス表面の酸化皮膜が物理的な衝撃などで破壊されても、酸素があればすぐに再生することができるため、通常の環境ではあまり問題になりませんが、実際にはこの材料が使われる条件というのは、環境条件が厳しく腐食が進みやすい為他の鋼材が使えないということもよくあります。ここではステンレスによく起きる腐食の類型についてまとめていきます。ステンレスは大気による腐食もありますが、溶液やガスとしては、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、カセイソーダ、海水、塩素イオン、硫化水素ガス、亜硫酸ガスなどがあります。
全面腐食 | |
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局部腐食 | もらい錆 |
粒界腐食 | |
孔食 | |
すきま腐食 | |
応力腐食割れ |
全面腐食
文字通り、使用しているステンレスの全体に腐食が起こってしまう現象ですが、用いているステンレスの置かれている環境によって進行度合いが左右されるほか、ステンレスのタイプや組成によっても耐腐食性はかなり異なります。大気やガスでも起きます。
局部腐食
もらい錆
他の錆びやすい鉄鋼材料の粉末が付着したり、他の鉄系材料と同じ場所に保管する等した際に起きる現象です。
粒界腐食
金属組織を顕微鏡で拡大したとき、これを構成する結晶の粒界のみが腐食していく現象です。これは鉄鋼材料が特定の温度帯(450℃から850℃、650℃で強く出現)で加熱されたとき、クロムの炭化物が生成され、このときにクロムが結晶粒界から奪われ、本来、耐腐食性に寄与するクロムの欠乏状態に陥ってしまうことで起きる腐食です。
防止する方法としては、いったんクロム炭化物が析出してしまったステンレスをさらに1050〜1100℃で加熱する、固溶化熱処理によって、クロム炭化物を再度、元の金属組織に戻してやる方法が知られています。こういった高温処理が難しい場合は。炭素の含有量が少ないステンレスを選択するのも手です。また、クロム炭化物が析出しにくいため、この粒界腐食を比較的起こしにくい鋼材もあります。チタンやニオブが添加されたSUS321やSUS347などがその例です。
孔食
不動態皮膜が穴状に破れて腐食する現象です。塩素イオンが原因で起きるとされるため、海水などには注意が必要です。ほかにも次亜塩素酸ナトリウム、塩素水、塩化台二鉄なども原因となります。
モリブデンを添加してあるSUS316、SUS317、SUS444、SUS447J1、SUSXM27、SUS329J2Lやクロム含有量の多いステンレスを使うことでこれらの対策となるケースもあります。
また使用上の対策では、塩素イオンがステンレスの表面に濃縮しないようにする方法も有効で、海水で用いる場合は流速を1.5m/秒以上にする方法も有効とされます。
すきま腐食
組み立てた際にできる「すきま」に十分な酸素がいきわたらずに酸化皮膜を形成できずに腐食している現象です。対策としては、不動態皮膜が形成しやすい環境に変えることですが、クロムやモリブデンの添加量の多い材料を使う方法も有効です。また可能なら「すきま」をなくす設計を行ったほうが腐食のリスクをさらに下げることができます。
応力腐食割れ
残留応力や使用する際のさまざまな応力がかかっている箇所に、腐食が起きて材料が割れてしまう現象です。オーステナイト系の鋼材でよく起きます。対策として、応力を除去するための熱処理や、結果として腐食と連動しているため、この発生を抑える、応力を低減する、塩素イオンなどの濃縮環境下を作らないようにする、高温にしないなどがあります。この応力腐食割れに強い鋼種としては、SUS304L、SUS316L、SUS321、SUS347などが知られています。
ステンレスの種類別 | 腐食の特徴
マルテンサイトの腐食
このタイプは耐食性の面ではSUS410などの他のステンレス鋼種よりも劣ります。一般的には、炭素量(C)とクロム量(Cr)が大きく影響するといわれ、炭素が少なく、クロムが多いほど錆(腐食)には強いといわれます。
また組成のほか、ステンレスの性質を決定付ける要素でもある「熱処理」も腐食に対する耐性に影響します。「焼入れ」の状態ではもっとも腐食に対して強くなり、反対に「焼きなまし」では劣ります。特に500℃付近での焼き戻しはクロムが析出していまい、クロム量が全体的に低下するため劣化の原因とされます。
フェライトの腐食
マルテンサイトよりは腐食に強いステンレスですが、オーステナイトほどの耐腐食性はありません。全般的にあまり苛酷な環境では使われないタイプですが、鋼種によってはSUS444、SUS447J1やSUSXM27など非常に強い耐食性を持つものもあります。
オーステナイトの腐食
耐食性に優れたステンレスの代表格ですが、強酸や強アルカリなどの過酷な環境下で用いると、腐食を防ぐための不動態皮膜をうまく形成することができず、全面腐食することがあります。使う環境にあわせて、添加元素を調整したタイプが多数開発されています。
なお、耐腐食性は単に塩酸や硫酸などの物質名だけを見るのでは不十分で、その濃度や温度、他にかかる物質、混入している物質などが複合的に絡んできますので、材料の選択には注意が必要です。